外交的談叢*1

昨日と今日、私はドイツ大使を訪問して、会談を交えた。そしてまた私が一般情勢をどう考えるかを聞きにきたオランダ公使、イタリイ、フランス両国の代理公使とも会談した。フォレッチは日華紛争が起って以来の何時よりも、現在の方が危険であるという。イタリイ代理公使ワイルショットはもっと激しく、二年間に世界戦争が起ると確信的に予言する。彼もフォレッチも、やがて連盟規約第十六条による制裁が応用され、日本h連盟から脱退するだろうと見ている。パブストと私は全問題に対して同じ意見を持つ。

彼らが私の考えを聞くとき、私は用心深く私の考えが純然たる個人的のものだということを前置きにする。それには二つの理由があり、第一は合衆国が連盟の一員でないので、連盟の処置に関しては何もいえぬこと、第二は合衆国の、これから形成される政府の代表として正式には、ルーズヴェルトが各条約を尊重する旨を公に発表したことを引用し得るのみで、何も話すことが出来ないこと。また現政府の態度は、すでに繰返して完全に明白にされているので、これ以上付け加える必要はない。

この前置きに続いて私は、個人の意見としては、連盟あるいはその他の何物も、規約第十六条に基づいて積極的な制裁を(満洲問題に関して)加えることは出来ないであろう。何も失うものを持たない小国は、連盟の威信を他の何物より大事だと思うかも知れないが、極東に利害関係を持つ諸大国は、この問題をそこまで引っ張っていくことは、容易にやるまいと思う。だから私は連盟が道徳的制裁以上には出まいと信じる−私はよろこんで、こんなふうに話をする。

日本人は圧倒的に優勢な敵に向かって英雄的とみなされる戦をすることが、この上もなく好きである。圧倒的な手段は彼らを現在以上完全に一致させるだろうし、各国が行うことに同意するような何らかの行動が、日本人を燻し殺すかどうかは疑問である。私はまた日本が連盟を脱退するかどうかも、疑問だと思う。軍部や盲目的愛国者は今脱退することを欲しているが、自由主義者たちはそれと激しく戦っている。今日幣原は最後の元老西園寺公爵に会いにいった。ワイルショットは、彼が政府が如何なる方針を採るともそれを支持することを近いにいったのだというが、某は、はっきりと、日本が連盟を脱退することがないように頼みにいったのだという。私もそう考えた。幣原以外にも熱心に働いているものがある。

軍部の力の強さをはっきり承知しているものは、一人もいないので、勿論私の考え方も間違っていることになるかも知れないが、連盟脱退はまず内閣、枢密院、更に天皇の同意を得なければ行われぬことで、斎藤、高橋、牧野などの優れた人達が、私も知っている通り脱退に反対している以上、よほどのことがなければ実行されまいと思う。私の同僚たちは、それぞれ意見を持っているが、圧迫手段が全世界への最大危険を伴うであろうことには、みな同意見であった。