満洲の内幕

この興味ある記述は、私の知っている米国新聞記者が最近、秘密に書いたものである。彼は知り合いになった日本の一実業家が、ある晩「暴露した」といって、彼の言葉を引用している。

私は満洲の真相をあなたに話そう。これは長い間陸軍大学の計画だったが中々実現しそうになかった。満州の中国人は日本陸軍を辛抱できぬ程度まで激怒させた。群は突然、銃の安全装置を半分はずし、罰することに決めた。軍は抵抗を期待したが、何も起らず、中国人は逃げてしまった。そこでわれわれは彼らを満洲中追いまくった。追いまくっているうち、片足が重くなった。何が靴にくっついているにかと思って下を見た。すると驚いたことに、それは満洲であった。

外務省や陸軍省は、あれこれと啓蒙的な計画を進めるのだとあなたに話して聞かせるだろう。だが本当のところ、彼らは何をすべきかについては、月の中にいる人間と同様、何の考案も持っていはしない。彼らは完全に思いまどい、そして狼狽している。陸軍を除くすべての人々は、いまや日本が完全に如何なる国家がおかしたよりも、もっと大きな悲劇的な失策をやらかしたということに気がつき始めている。一例として、もし満洲の銅鉱を開発すれば、日本の銅山はすべて閉鎖されねばならず、何万という人間が失業する。日本政府は、満州が人口過剰に苦しむ日本にとっての排け口だということが、単なる夢に過ぎないことを十分理解している。

日本から満州への移民という路で、われわれが望み得る最大は、一年に約二万人である。一年に九十万人ずつ増加する国にとって、これは何らの解決法ではない。

米国の新聞記者は続ける。−

某は、あなたも知っている通り、日本の知的指導者の一人である。満洲事変が起った時、無謀にも軍部に反対の声をあげたので、あやうく暗殺されるところだった。彼の友人は彼を病院につれて行き、夜中に二階の窓から逃がした。彼は米国へ行き、彼自身の命を助けるために、そこらじゅう「バンザイ」を叫んで廻り、それから私に本当に何を考えているのか、秘密に話して聞かせた。

彼もまた満洲は悲劇的な失敗だったと信じている。私が彼に荒木将軍をどう思うかと聞いたら、彼は「すべての軍人と同じく、荒木将軍も馬鹿だ」と答えた。

彼は私に、彼の政党が遂行しようとする政策は、中国に満洲所有を認めるが、だがしかし遼東半島の租借権を全満洲に延長して、これを九十九年間有効なものにするのだといった。彼はまた、次の五カ年計画の終わりにソ連との戦争が起ることはほとんど確定的だといった。これを避けるために、日本は満洲のどこかの港でソ連に海への出口を与えまた欧州がダーダネルス海峡ソ連のために開くように説得すべきだと考えている。

この某が日本に帰ってくると、天皇は彼を呼び、米国の世論の現状を聴取しようとされた。本当の理由は、彼を暗殺から救うためであったに違いない。拝謁後、某は私に何が起ったか話して聞かせた。天皇満州事変に賛成しておられぬので、非常に御心痛であった。天皇は、日本の最大な危険は好戦的愛国心だといわれた。あまりに激しい国家主義もそうだ。某は曰く、天皇は何があっても陸軍は北平を占領してはならぬとの命令をだしておられる。

この間、荒木将軍は公然と「陛下が日章旗を押し進めよと命令されているのに、吾人は軍を引くことができるか、云々」と、絶叫していた。

私は斎藤子爵と会見したが、この会見談は検閲にひっかかってとめられたに違いない。彼は非常に傷心し、悲しんでいた。

彼は満州事変は断じて起すべきでなかったといった。全世界を怒らせないで、同じ結果が得られたといった。私は彼に、いまとなってはこの問題について何事かなされ得るだろうかとたずねた。彼はいった−「ねぇ、ヒヨッコは時々卵のことを考えるに違いあるまいと私は思います。卵の中がどんなに暖かく、気楽だったかということを。しかし一度殻をやぶって出てきた以上、もうヒヨッコが帰っていける卵はないのです。われわれとしてはただ最善を希望して前に進むだけですよ。

私は彼に合衆国と日本の戦争の噂について質問した。どっちの海軍も武者震いをしているらしいが、私には戦争の予想がまるでつかないというと、彼は「しかしあまり確信しないほうがよござんすよ、自分の経歴が戦争に依存している人達は、いつでも戦争を望むことを、忘れてはいけませんよ」といった。

私は聞いた−「閣下、あなたは海軍のことを考えておられるのですか。」

「いえ、いえ、いえ、いえ」と彼はいった。「海軍は大丈夫です。しかし陸軍は世界を極めて僅かしかしっていません。」