廣田との別れの会談

今朝外務大臣を訪れ、三年以上日本にいたので合衆国政府は私に休暇をくれ、それで私は明日出帆する船で米国へ帰ることを告げた。晩秋には日本に帰ることだろうともいった。外相は親切にも、間違いなく帰ってくれ、とにかく大使が変るとある程度の混乱と、新大使と彼が駐在する国の政府とがお互いをよく知り合うまでの間、望ましからざる間隙が生ずるものだからといった。彼はとくに現在、更迭が行われぬことは、最も大切だと思うといった。私は私の知る限り、現在更迭を行うという考えは米国政府になく、東京に帰任することを完全に期待していると答えた。

私はワシントンに着けば、もちろん日本の現状及び日米両国間の情勢について、直接大統領や国務長官に報告するが、もし外相が何か意見を表明したいのならば、私はこの上もなく喜んで、それを大統領とハル氏に伝達しますといった。廣田氏はこれに対して、彼が外相に就任した時私にいったこと、即ち彼は日米間のよき関係を最大の重要点と認め、この関係の向上を彼の政策の礎石にするつもりだということを、私に想起させた。二年前、日米の関係は面白くなかったが、彼は今やそれが著しくよくなっていることを感じ、このよい関係が続かぬ理由は何も見ることが出来ない。この最も望ましい結果に貢献すべく、全力をつくすつもりでいる。廣田氏は、日本と他の或る国々との関係は、日米関係の現状よりも、もっと困難で不満の点が多いと考えるとつけ加えた。

この件に関して廣田氏は海軍の情勢に言及し、もし今年何らかの一致を見、条約を締結する見込みがないならば、いっそのことこの問題はそのままにしておき、現在の「平和的」情勢を維持したほうがいいと思うといった。彼の考えでは一番避けねばならぬのは、一国が他国に圧力を加えることで、それは単に刺激を引起すだけである。日本海軍は現在何らの計画を持っておらず、当分の間は現状のままで事態を推移させることに満足している。廣田氏は今年中には会議が開かれねばならるまいが、これは純然たる形式的のもので、必ずしも論争を惹起することなく、向こう一、二年間は休会とすることが出来るだろうと考える。彼の与えた印象は、日本の海軍が以前ほど強要的な気持ではないということだが、彼ははっきりそうはいいはしなかった。表現された概念は、もし相当な時間が与えられるならば、多くの難問が滑らかに解決されるだろうということである。

三年間日本に駐在した後で与えられた休暇は、ここで日記を中断させる。しかし以下の項目は記録としてここに記入する価値があるらしく思われる。