日本がリンドバーグを疑った時
ここ数日来、新聞は「現代」にでた末次提督の文章のことで一杯であった。これは米国の好戦的意図を暗示以上にはっきりいった、相当主戦的な言辞で、日本は極東平和を維持するために日清、日露の戦争を遂行し、満州を引き受けたといっている。これは、どんな日本人にとっても、単に日本の優越以外の何者をも意味しないのだが、しかも日本人は明らかに、真実の真面目さでこれを語る。末次提督は彼の文章の中で次のように述べる−
米国人はいまや多数の飛行機を広東に送り、上海、漢口その他の航空路を補強している。現在それ以上を広東とついで厦門と福州に送り、上海に至る沿岸に航空基地を建造しつつある。北方では米国人が、何度かアラスカ経由で太平洋を横断せんとして失敗したことを、吾人は記憶している。吾人の軍事的観点からすれば、彼らの失敗に帰した企ては、偵察なのである。彼らは意味深長でやっているのだが、日本人は人がいいので、彼らの純粹*1の親切を示し、ことに田舎の人達は、まるで彼ら自身の息子が大きな海を飛び出そうとしているかのように、親切にしてやった。
某中尉は不思議な飛行をして戻ってきた。その後何が起ったと思う。リンドバーグ夫妻がやってきて千島諸島に一週間もどどまったが、昨日も悪天候、今日も悪天候といった。彼らは飛んで、再び戻っていった。もちろんこれは想像かもしれないが、彼らがあの地方を偵察したということも、同様に可能性がある。いま米国人は何をしているか。それに引き続いてアリューシャン列島を、測量隊、電信隊、航空隊その他を大規模に動かして測量しているのである。それが何を指すか?引続いて彼らはソ連と国交を再開した。
もちろん、われわれは経済的動機をここに見ることが出来る。しかし彼らが好戦的準備で日本を各方面から包囲することの可能性を考えているかも知れぬということは出来る。ソ連は極東に能率の高い爆撃機を集中し、各種の戦闘準備を進めている。戦争が開かれれば、台湾、北方、ソ連領地の三方から彼らは空路日本を包囲するであろう。われわれは強大な空軍が大艦隊により、太平洋を越えてはこばれることを、期待すべきである。われわれはこのような不測の事件に備えているのである。
リンドバーグがスパイをしたという断言は、私には少々行過ぎとおもわれる。
*1:じゅんすい。純粋と同じ。