ベーブルースをもてなす

ベーブ・ルースレフティ・オドウール、東京ゴルフ倶楽部のチャンピオン赤星四郎の三人と朝霞ゴルフ場へ自動車で行き、新聞班員がベーブを追いかけまわしたにかかわらず、十四ホールばかりやることが出来た。ベーブもオドウールも物すごく玉を飛ばせ、二人とも中々しっかりしたゴルフをやるが練習不足で、いつも真直ぐに飛ばせるというわけには行かなかった。ベーブが私があまり強くボールを打とうとするといい(私の欠点である)そして野球でも全く同じことで、あまり力一杯うとうとすると(これが本塁打王のいったことだ)ボールから目を離すにきまっているといったのは面白かった。私はホーム・プレートでベーブがそんなへまな真似をするのは、見たことがない。

だが、本当に面白かったのは、ゴルフ場への往復の自動車の中で、ベーブとレフティとが野球のあれこれについて、実に山ほどの議論をしたのを聞いたことである。速記者を連れてくればよかったと思ったくらいだ。勝負がすむとわれわれはキャディ達を後に、倶楽部の段々に坐らされ、ニューズリールのために何かしゃべらされた。突然、まったく思いがけずに、私にも何か気がついたことをいえとの注文である。私は大体こんなことをいった。−「ねえ、ベーブ、君を東京に迎えるなんて大したことだよ。だが一体君は、今日どんなに立派な人達と一緒にいるのかしってるかね。東京ゴルフ倶楽部のチャムピオン赤星君と、世界で一番下手なゴルファ、つまり僕とが相手をしたんだよ」。

これに対してベーブは堂々と、その世界で一番経たという称号には異議がある。自分もこのゴルフ場のありとあらゆるおとし穴にひっかかったのだからと応答した。これは事実である。しかし彼は必ず最初のショットでそこから抜け出したが、私には出来なかった。もちろん倶楽部の職員とキャディ達は心底から夢中になり、また私はゴルフ場で会ったゴルファのだれにでも彼を紹介し、そのたびごとにベーブは "Pleased to know you" といった。全日本が彼に首ったけになったことは、いうまでもない。ベーブは私が逆立ちしても及ばぬほど効果的な大使である。